Little AngelPretty devil 
      〜ルイヒル年の差パラレル

     “年の初めも”
 


暖冬だと予想されたにしては、
まだ厳寒期でもないうちの師走の初めから
各地の幹線道路を不通にする勢いで
大雪は降るわ、
横殴りの吹雪とそれから、
海をも荒らして高波を巻き起こす
突風が吹きすさぶわと。
とんでもない始まり方をしたこの冬で。
そのくせ、クリスマス以降の年末は
いやに暖かでいいお天気となり、
大掃除日和ですねなんて
人を大きに油断させといて、

 「この寒いのに
  ご来光を観に行くなんて
  言い出しやがるんじゃねぇかって、
  バイクのキー隠してやったんだがな。」

 「そーか、やっぱりお前の仕業か。」

例年だったら、大みそかの晩は
そのまま初詣でになだれ込むこととなろう
深夜のお参りに連れてけと、
迎えに来いメールを寄越すのが常の子悪魔様。
今回の年越しは、
宵の口から葉柱家にお邪魔しており。
ベテラン都議であるご当主へ
年末間近になって
急にバタバタした政局でしたねと
この一年を回顧し、
お世話になりました来年もよろしくとの
ご挨拶に訪のう
そっちの筋のお客様たちが
引きも切らずだという、
一種独特の厳格な空気漂うお屋敷なれど。

 『キングの相手をしに来ましたvv』

こちらのお宅の愛犬、
シェルティちゃんの名前を出すという、
何とも微妙な用向きでの
アポなし訪問をしたとても、
“さあさ どうぞvv”と歓待されてしまう
そりゃあ無邪気な関係者だったりして。
さすがに元旦まで押しかけるのは
不躾と敬遠されるからか、
年を越した翌日の元日は、
そりゃあお静かなお屋敷であり。
一応は、
ご当主様を囲んでご一家が顔をそろえ、
新年の挨拶を交わす
儀礼的な食卓の場も
構えられているようだけれど、

 『ウチのそういうのは、
  朝昼兼帯の飯になっから。』

親父もお袋も遅くまで
客があったりすっからな、
どうしたって遅寝になるんで、
ぎりぎり午前中なら元旦だろうって理屈で、
家族での挨拶やら
屠蘇の酌み交わしやらは
そんくらい遅くなるんだなと。
勝手知ったるメイドさんが
用意しといてくださったらしい、
そういうのとは
ノーカウントになろう腹ふさぎ、
丁寧な出来のミックスサンドと
ポタージュスープに、
即席にしては
アナゴや高野豆腐も
しっかり使われているのり巻きと
かき玉仕立てのお澄ましとを、
大きめの角盆に載せたの
ひょいと運んで来てくれた葉柱で。
上背のあるお兄さんなのでという
大きめのベッドで、
どっちが湯たんぽ係だったやら
くっついて寝入ったお二人だったが、

 「バイクのキーが
  要るような用でも出来たのか?」

意外にものり巻きを選んで
“厚焼き玉子 うんまぁいvv”と、
子供みたいに
素直に眸を見張ってた坊ちゃんが、
すかさずのようにそうと訊き、

 「ライスボウルは明後日だぞ?」
 「判っとるわ。」

家の普請には問題なかろう、
そりゃあ頼もしいお屋敷の当家でも、
庭の木々が風になぶられている
荒々しい木の葉擦れの音やら、
どこの荒野だと思わすような
風籟の唸りやらが遠く近くに聞こえるほどで。
お陽様こそ何とか覗いているものの、
こんな大荒れの中、
しかもバイクでわざわざ出掛けるなんてと、
これでも案じて訊いたらしい
金髪の坊っちゃんだったのへ、
そんな口利きをする小憎らしい口の傍から
甘い酢の利いたご飯粒を
ひょいと摘まみ取ってやりながら、

 「乗るんじゃねぇよ。
  今日ばかりは
  どうせ出掛ける訳にもいかんのだし、
  トレーニングも
  ナカ(屋内)でこなせっし。」

なので、
愛車の点検でもしようかと構えていたらば、
昨日の出先から帰ってくるのに
乗ったはずのマシンのキーが見当たらぬ。
それでと坊やに訊いた
お兄さんだったという次第。
なぁんだと納得した坊や、
パジャマ代わりに着ていたまんまの
Tシャツの襟ぐりへ
小さな手を突っ込んで

 「…ほれ。」

 「どういう隠しようを
  してるかな、お前はよ。」

紐を通して
首からペンダントのように提げてたらしく。
その紐ごと外してほれと差し出すのへ、
そうまで信用ならんのかと
口元をひん曲げた葉柱だったが、
してやったりという笑いの割に、

 “なぁんか、
  キングの機嫌のいい顔に似てないか?”

こんな寒い中を出掛けるのかと案じた反動、
やれやれとホッとしたのがありありしており。
大学生の恐持てな男衆を相手に、
微塵も引けを取らない
迫力や威容を醸せる鬼っ子が、
なんてまあ
可愛らしいお顔を見せてくれるやら

 ……と。

こちらも
日頃は大人のごろつきでさえ怯むほどの
そりゃあ鋭い目付きを
恐れられておいでの総長さんが。
おやまあと意表を衝かれたからとはいえ、
きつい三白眼をやや大きく見張ったその後、
何とも言えぬ和んだお顔になってしまい。
これもまた初春に相応しく、
幸いを招きそうな
いいお顔だったそうでございます。




    〜Fine〜  15.01.02.



  *いやもう、嘘みたいな急転ぶりで、
   年末の3日ほどは温かいほうだったのに、
   ほんの一晩でこの寒さって何ごとでしょか?
   今朝なんて、こっちでも雪が降ったらしい庭でしたよ。
   皆様も風邪など拾われぬよう、どうかご自愛くださいませね?


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